【まとめ(5)】福島第一原発の状況
4/13 0:30時点.
更新が止まっていた間も見てくれていた方がいらっしゃったようですが,長らく更新できておらずすいません.
いろいろ思うところ,考える事が多く,また事態の大幅な変化もなかったため,更新していませんでした.
ただ長期化が避けられなくなってからずっと現状のまとめをしようとは思っており,INESの評価がレベル7に変更されたのを機にまとめてみることにしました.
今回のエントリはいままでと異なり,わからないことも多いのですが(特に後半),今自分が考えられている範囲のことを書いてみます.
【INESとは】
・INESとはIAEAが定めた国際原子力事象評価尺度
・基本的には事象の当事国が自己評価するもの(基準を設定したのはIAEAだが,評価者はIAEAではない)
・事故の「事象」そのものをはかる尺度で,事故による「被害」をはかるものではない
・参考webサイト
−国際原子力事象評価尺度(INES)(日本語)
http://www.bousai.ne.jp/vis/bousai_kensyu/glossary/ko18.html
−INES User's Manual(英語)
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/INES-2009_web.pdf
【INESの評価基準】
・評価基準は3つ
1) 発電所外への影響(放射性物質の放出)
2) 発電所内への影響(炉心の損傷,作業員の被ばく)
3) 深層防護の劣化
・日本語サイトを見るとわかるとおり,それぞれの基準に別々の尺度(レベル)が設定されている.
−1)はレベル7まで,2)はレベル5まで,3)はレベル3まで
・特に重要なのは1)の基準だが,周囲への影響は「周囲へ放出された放射性物質の量」で測る
−「周囲の人などの被害の程度」ではない.なぜなら,適切な処置(避難など)を取れば被害は緩和できるため.
−また放出された放射性物質の拡散の濃淡についても評価はない.天候や放出ルート等に左右されるため.
【INES上のスリーマイル,チェルノブイリとの比較】
・スリーマイルは事故後の検証により,2)の「炉心の損傷」がレベル5に達していたと評価
・チェルノブイリは,炉心が爆発し放射性物質がまき散らされたことより,1)がレベル7に達していたと評価
・福島は早い段階で2)がレベル5に達していると評価
・これまでの放射性物質の放出量を累積したところ,1)のレベル7に達したと判断し,評価を変更
−ただし,チェルノブイリは1基,福島は3基の合計
−総放出量はチェルノブイリの10分の1程度
レベル7に認定されたのはチェルノブイリ以外なく,この事故の重大さを物語る結果
特に原子力関係者にとってはショッキングなニュース
しかし適切な処置を取り続ける事で,社会的な影響は緩和できる
短期的には避難だが,長期化により避難している方々の負担軽減が課題
中長期的には正確な放射性物質の拡散マップを作成し,高濃度のところでは除染作業
正直なところ,世界中で誰もこのような事象を経験したことがないため,今後の見通しを語るのは非常に難しく,技術系の人間としてはよくわからないことに意見を言うのははばかられるが,あくまで1つの意見として,コメントを試みる.
【今後の見通し(原子炉内)】
・収束に至る主なステップ
1) 炉内の冷却を従来の閉じた冷却系を用いて継続的にできるまで復旧する
2) 炉内の燃料の温度を100℃以下にする
3) 炉内の燃料を取り出す
4) 原子炉の廃炉
・障害となっているのは,高線量の作業環境
−対策は一時的には汚染水の除去,同時に放射性物質の流出経路の特定と遮断
1)に至るのに数週間,2)はその後もう数週間?(雑駁な推測,確度は低い)
政治的には1)または2)になった段階で収束宣言ではないか?あとは技術的な対応
3)にはまずクレーン等を復旧し,損傷していない一部の燃料を取り出す
その後,損傷した燃料をすくって出す(スリーマイルでは同じような処置を取ったよう)
技術開発が必要になるケースも考えられ,数年(<5年)はかかるのではないか?
4)にはさらに数年〜10数年?(通常の原子炉の廃炉もこの程度)
一部でチェルノブイリ同様の石棺説も出ているが,個人的には3)が相当困難でない限り,その決断はないと考える
【今後の見通し(使用済み燃料プール)】
・原子炉内とは異なり,従来の閉じた冷却系を復旧して継続的に冷却できるようになったら収束
・ただし地震の影響で,冷却系のループが破損している・緩んでいる可能性がある
・その場合冷却水が漏れてしまうので,破損個所を特定し,処置をほどこす必要がある
・そうでないと引き続き,ポンプ車による注水が必要
福島第一原発の状況11
3/26 1:00時点
短めにアップデートします.
今までも公開情報に基づいて情報発信してきましたが,昨日からの情報はあまり良いものとは言えません.
(東京の友人が多いので書いておくと)東京への影響はまだすぐに考える必要はないと思いますが,報道量の減少と比べるとまだ注視しなければならない状況であると言えます.
【原子炉の状況】
・1号と3号への水の注入は,海水から淡水に切り替え
・1号と3号のタービン建屋の地下に溜まった水から高濃度の放射性物質を検出(1㏄あたり380〜390万ベクレル)
・核燃料の破損が起きているだろう(程度はどれくらいか?2号の状態は?)
真水に切り替えたことはよいが,外部電源による冷却機能の復活には至っていない
それ以上に,1号や3号(もしかしたら2号)の燃料の破損の状況が気になる
ペレットと被覆管(5重の壁の1つ目と2つ目)が破られているのかどうか.程度はどのくらいか
圧力容器と格納容器を死守しなければならないが,きちんと管理されているか?
特にサプレッションプールが損傷しているとみられる2号の状態は心配
現場がどれ位正確に状況把握できているのかわからないが一時期の楽観的な観測通りにはいっていないのは確か
【水について】
・各地のスーパーやコンビニでミネラル・ウォーターの品切れが相次いでいるよう
・その中でイトーヨーカ堂は母子手帳がある人に優先的に売るようにしているとのこと
・一部では既に基準を下回っているが,あくまで乳児や妊婦を対象とした基準を超えただけなので,適切な処置
・正しい情報を出すだけでは風評被害は防げないのだから,政府はこのような対策をもっと広く行うべきでは?
福島第一原発の状況10
3/25 0:30時点
日常復帰して今までのような情報発信が難しくなりつつありますが,できる範囲で現状のまとめ.
野菜などからの放射性物質の検出が連日伝えられていますが,個人的に詳しくないため解説はできません.
気になってブログを覗いてくれている方がいらっしゃったら,お役に立てずすいません.
チーム中川@team_nakagawaや放医研http://www.nirs.go.jp/index.shtmlを参照ください.
【電源および機器の復旧】
・外部電源は1〜6号全てに接続,受電
・1号及び3号の中央制御室の照明復旧
−作業環境が改善
−計器はどれくらい復旧しているのか?
−計器が復旧すると,発電所の状態がより正確にわかり,より的確な対応策を打てる
−事故発生から現在までは炉圧や炉水位など最低限のデータを取るためにごく一部を非常用バッテリで稼働
・1〜4号全てで冷却機能の回復のために機器の点検中
−2号は放射線量が高く,作業が難航
−3号は地下は30cm程度の浸水あり(他も同じような状況か?)
−浸水だけで機器が壊れていなければ,早期の復旧も可能(ただしメンテナンスは必要)
事態を収束させるために最も重要な作業
以前も懸念を述べた通り,海水冷却は内部に塩が溜まってしまうため,どこかで真水に切り替えないとならない
最終的に冷温停止し,常時コントロール下に置くには外部電源による冷却機能の復旧が不可欠
【原子炉内および使用済み燃料プール】
・原子炉内
−1号の温度が高くなっている(優先度高)
−2・3号も
−事態の悪化を防ぐために海水注入は鋭意継続
−外部電源による冷却機能の回復を待つ
・使用済み燃料プール
−自衛隊及びハイパーレスキューの放水がうまくいっており,冷却できている
−2号の冷却状況は少し心配(建屋が残っており,放水が困難?)
−2〜3日程前に2号に対して若干の放水を行ったという報道があったが,方法は不明
−原子炉と同じく,外部電源による冷却機能の回復を待つ
【作業員の被ばく管理】
・3号の冷却機能の点検を行っていた作業員の被ばく量が180mSvと高い数値
・うち2人はベータ線熱傷の可能性
今までは現場は線量管理をきちんとやっているので大丈夫と述べてきたが,今回の件は疑問を呈さざるを得ない
なぜ放射性物質が皮膚に付着するような事態になってしまったのか?
30cmの水の中で作業するための備えがなく対応できなかったということは考えられる
現場も被災地なので,先週までは水すら十分になかったよう
臨機応変な対策(例えばビニール袋で)をするための物資も不足しているだろう
しかし被ばく管理は作業員の健康と作業の進捗の両面から大切
難しい判断であることは間違いないが,できる限りの対策を取ってほしい
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【余談】
科学的な解説は提供できませんが,私ならどうするか,ということを書いてみます.自分はホウレンソウ(ただし水洗い等はちゃんとする)も食べれば水も飲みますが,仮に小さい子供がいたとしたらミネラル・ウォーターを飲ませると思います.大人より子供の方が影響が出やすいですし,科学的にというよりは精神的に,できる限り小さい子供をリスクから守りたいのは理解できます.一方で少なくとも大人には健康影響がない範囲だとわかっているものであれば,例えば茨城のホウレンソウを使ってしかも1食あたり○○円を被災地に寄付するレストランとか,復興キャンペーンみたいなのがあってもいいと思います.お客のターゲットは限られますが,茨城や福島も被災地なので.
【まとめ(4)】福島第一原発の状況
3/21 14:45時点
2日近く更新できていなくてすいません..
今までこのブログでは主に「発電所内の現状」「今後予想される事象」「対策の進行状況」をお伝えしてきました.
当初は発電所で何が起きているのかについての情報が錯綜しており,報道を見ているだけではまとまった情報が得られないのでは?と思って書き始めましたが,ここ数日は炉内の状況も良くはないとはいえ,安定してきています.
むしろ新たに問題となってきているのは,周囲へ放出されたごく微量の放射性物質の影響(特に人体への影響)がわかりにくい(本当に影響ないのか?どんな対策をすればいいのか?)ということだと思うので,今後は可能な限りそういった情報も盛り込めるようにしたいと思います.
しばらく十分な情報収集ができない可能性が高いので,中途半端なエントリが続くかもしれませんがご了承ください.
【情報源】
前回のエントリでも触れたが,このブログの記事を書くにあたって追っている情報源は主に以下の3つ.
・官房長官会見 http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/index.html
・原子力安全・保安院 緊急情報 http://kinkyu.nisa.go.jp
・東電 プレスリリース http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/press_f1/2010/2010-j.html
これらの1次情報を追うだけでも,かなり状況はつかめる
2次情報としては少なくともNHKは信頼していいと思う
NHK福島第一関連ニュース http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/index.html
【発電所内の状況】
・外部電源について
−電源は,2基ずつ融通できる仕組み(1・2号,3・4号,5・6号)
−復旧した場合,以下の順序で外部電源が利用される模様
1.所内の照明(安全かつ効率よく作業するため)
2.中央制御室の計器(炉内の状況を詳細に把握.現在は炉圧など最低限の計測器を非常用バッテリで稼働)
3.原子炉内の冷却系(ECCSなど)
4.使用済み燃料プールの冷却系
−それぞれの進捗
(1・2号)接続完了.復旧に向けて機器の状態を調べる段階.
(3・4号)接続作業中.
(5・6号)接続完了.復旧に向けて機器の状態を調べる段階.冷温停止したので他に比べて緊急度は低い.
・炉内について
−海水冷却を継続
−電源接続によって機器が復旧すれば,より安定的・効率的に冷却が可能
・使用済み燃料プール
−3・4号に対して,自衛隊とハイパーレスキューが放水
−特にハイパーレスキューは無人での放水の仕組みをつくり,大量放水を可能にした
−周辺の放射線強度が低下.一定の効果が出てきている.
−建屋が健在な2号は,外部からの放水が難しいため,若干懸念あり
・5・6号
−6号の非常用ディーゼルを用いた冷却により,"冷温停止"状態に
−1〜4号のような状態にはならずに済んだ
放水がうまくいっている,5・6号が冷温停止した,のは朗報
外部電源の復旧がうまくいってくれれば,状況を改善できる可能性が高くなる(まだ楽観視はできないが)
【放射線や被ばくに関すること】
・東大医学部放射線治療専門チーム(中川恵一准教授)
Web: http://www.u-tokyo-rad.jp/2011/03/17104924.html
twitter: @team_nakagawa
・放射線医科学研究所
Web: http://www.nirs.go.jp/index.shtml
基礎知識1: http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i3
基礎知識2: http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i4
基礎知識3: http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i6
政府の発表で「直ちに健康に影響は出ないレベル」という表現が続いており,発表に疑問を抱いている方が多い?
しかし上記のサイトを見るとわかる通り,事実そうとしか言いようのない状態
特に医学的・科学的根拠のない情報の影響で被災地域に物資が届かないというような事態は防がないといけない
福島第一原発の現状9
3/19 10:00時点
昨日から日中は大学に復帰したので,ちょっと情報量が足りていないかもしれませんが,twitterでさらに拡散していただいた方がいらっしゃったようなので,わかる範囲で情報提供いたします.
【事態収拾のために打っている対策】
・海水注入による炉心の冷却
・放水による使用済み燃料プールへの水の注入(冷却,放射線遮蔽)
【現状】
・炉心の状況はあまり情報が提供されていないため判断不能
−ただし昨日は私が東電記者会見を見れていないので,何か言ってた可能性はある
−悪化したら報告が入るはずなので,それがないのは悪くはない証拠か?
・放水は,ヘリコプターによるものはやめ,地上から継続
−自衛隊に加え,昨日の夜から消防隊のハイパーレスキューによる放水も開始
−放水作業による被ばく量も数mSvと言われているので,被ばく管理の面からは大きな影響なく継続可能
−ただし効果については定かではない(放水したのち水蒸気が発生していることから一定の冷却はできているが)
・周囲の放射線計測の数値が下がっている模様
−建屋付近か,正門付近かは不明
−現時点での放射性物質の漏えい,という点ではよい傾向
・外部電源が復旧する可能性
−放水作業とバランスを取りつつ,2号機への接続作業を行う
−詳細はhttp://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/press_f1/2010/htmldata/bi1359-j.pdf
得られている情報からだと,引き続き小康状態で安定.着実に上記2つの対策を行い,事態の推移を見守る
外部電源の復旧は1つの鍵
機器の点検も必要なので電源を繋いだだけではだめだが,冷却系統が復旧すれば状況は少し好転する可能性あり
【情報の正確性について】
直前のエントリへコメントとしてもいただきましたが,東電や政府が正しい情報を開示していないのではないか,情報を隠ぺいしているのではないか,という疑念をお持ちの方もいらっしゃるかと思います.それに関して,私の意見を述べます.ご参考に.
・少なくとも,発表されているデータ(数値)は正しいだろう(速報性の高いものを除く)
・事象の因果関係や今後の見通しについては,信頼して良いが同時に検証も必要
−検証を行う場合は,公表されているデータを基に,論理的に仮説を立てて行うべき
−「東電は過去に事実を隠ぺいしていたことがあり信用できない」は検証になっていない
・一方で事態を正確に把握するのに必要と思われる情報の一部が出てきていないと思う部分があるのも事実
−具体的には炉内の圧力や水位,使用済み燃料プールの水位や温度(私が聞き逃している可能性あり)
−計測機器がうまく作動していないor信頼できる値を示していない可能性もある
−公表していないのか,そもそもうまく計測できていないのかは不明
−データの公表を追及しても良いがきちんとポイントを絞って追及すべき
(新たな現場確認等により以前公表した事実と異なる見解を示した場合などやむを得ない場合と明確に区別)
・私が参考にしている情報ソース(基本的に当事者発表による1次情報,NHKのみ2次情報)
官房長官会見 http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/index.html
原子力安全・保安院 緊急情報 http://kinkyu.nisa.go.jp/
東電 プレスリリース http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/press_f1/2010/2010-j.html
NHK 福島第一関連ニュース http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/index.html
福島第一原発の現状8
3/17 22:00時点
今日のまとめ.現状を一言で言えば「小康状態」
【3・4号の使用済み燃料プールの冷却】
・当初,水が少なくなっていると懸念されたのは4号の使用済み燃料プール
・しかし東電の発表によれば4号の方にはまだ水が残っており,水蒸気が発生している3号の方が優先度が高い
−水の量は不明だが,NHKの報道では,東電の発表によれば使用済み燃料が水の中に隠れている,とのこと
−ただしその場合,火災の原因として言われている水素爆発の説明がつかない
−水を確認したのがヘリコプターからの目視なので,水の量や火災の原因どちらも不確実な部分あり
・10時頃,ヘリコプターから7.5トン×4回の放水を実施
・どれ位の量入ったかはわからないが,いまだ数字上は顕著な変化は見られていない(ただし悪化もしていない)
・警視庁の放水車は届かず断念したが,20時頃自衛隊の放水車が放水開始
・5・6号の状態が同じようになることが懸念されていたが,6号の非常用ディーゼル発電機が復活
・5・6号へ電力供給し,冷却系統を稼働できている
自衛隊の放水車による放水はできたようだが,入った水の量や効果(冷却,放射線遮蔽)はまだわからない
すぐに十分な量を入れられるわけではないので,効果を見比べながら,放水を継続する必要あり
1〜3号の炉心の冷却と同じく,少し長期戦の様相
【1〜3号の炉心冷却】
・冷却を継続しているという以外の情報はなし
・若干の懸念は,海水の蒸発により炉内に塩が溜まってきている可能性が高いこと
−それにより冷却効率が下がっている可能性あり
・朗報は,東北電力の送電網からケーブルをひっぱり外部電源が復活し,2号に接続予定だということ
−機器が生きていれば,外部電源駆動の緊急炉心冷却系を用いて炉心冷却をすることが可能
−大幅に効率が改善される可能性がある
引き続き,様子を見守るしかないが,外部電源の復活のきざしは朗報(復旧は明日以降になる模様)
緊急度の高い2号から接続するようだが,これが成功して1・3号にも接続できればだいぶ状況は好転
厳しいニュースが多かったので,外部電源の復活を少し楽観視しすぎているが,心情としては期待してしまう
冒頭にも書いた通り,「小康状態」なので落ち着いて状況を見守っていく
【まとめ(3)】福島第一原発の状況
3/16 23:00時点
今日は情報提供ができていなかったので,少しまとめてお知らせします.
外部への放射能漏れやそれに対する対策については触れていませんが,その辺はデマが増えたのに対抗して信頼できる情報源が増えているのでそちらを参考に.
以下2つは特におススメです.これらを読めば,発表されている数値を正確に解釈できるかと思います.
・中川先生(東京大学・医学部)を中心とした放射線治療専門チームのtwitter @team_nakagawa
・放射線医科学総合研究所Webサイト http://www.nirs.go.jp/information/info.php?i3
また以前のブログhttp://d.hatena.ne.jp/horiken815/20110315/1300160308の【外部への放射性物質の放出,検出された放射線量】でも触れています.
【福島第一で起きている事象】
・細かい条件は異なるものの,現在福島第一で起きている事象には2種類ある
・1つが,1〜3号の「原子炉内」で起きている事象,もう1つが3・4号の「使用済み燃料プール」で起きている事象
【2つの事象の共通点】
・どちらも核燃料(または使用済み燃料)が発熱している
・発熱の原理は,ウランの核分裂により生成された別の放射性物質(核分裂生成物)からの発熱(崩壊熱という)
・核分裂反応は止まっている(使用済み燃料はもちろん,炉内に残っている核燃料も)
・対策はひたすら水で冷却すること
【1〜3号の原子炉内で起きている事象】
[現状]
・備え付けの緊急用冷却機能を喪失し,原子炉圧力容器内の温度が上昇,冷却水の水位低下,燃料の一部が露出
・消火用ポンプを使い,海水にホウ酸を混ぜて炉内(圧力容器内)のに注入し,冷却を継続
−ホウ酸を混ぜるのは,炉心溶融による再臨界(連鎖的な核分裂反応の再開)を防ぐため
・水位は1〜3号どれも炉心頂部から約マイナス2m
−4mの炉心の半分程度が蒸気中に露出
−決してよい状況ではないが,長らくこれより下がっていないようなので,悪化もしていない
−海水注入を継続し,この水位を維持・上昇させていくことが重要
・圧力は午前の時点で0.9MPa程度(3号)
−あまり圧力が高いと消火用ポンプではパワーが足りず水が注入できない
−今は注入できているので,今後も低圧力をキープして,海水注入を途切れさせないことが重要
・露出が長く続いているので一部損傷(場合によっては溶融)している可能性あり.ただし,
−燃料はペレットとその外側を覆う被覆管とからなるが,放射性物質は全てペレットの中に入っている
−融点はペレット2800℃,被覆管1850℃であるため,被覆管が溶融してもペレットは溶融していない可能性
−ペレットが溶融しない限り,放射性物質の大部分は放出されない(気化しやすいセシウムのみ外部に流出)
[対策]
・冷却を継続することが最も重要.
・冷却しきってしまえば,炉心の大部分が溶融してしまうことはない
・仮に炉心が溶融しても圧力容器とその外側の格納容器で放射性物質を閉じ込めれば外には放出されない
・格納容器の健全性も重要なので,圧力を上げすぎないよう管理する必要あり
・2号はサプレッション・チェンバー(格納容器の一部)が破損している可能性があり1・3号よりも確実に冷却が必要
【3・4号の使用済み燃料プールで起きている事象】
[現状]
・プールの冷却機能がなくなり水温が上昇,蒸発して水位が低下し,使用済み燃料が露出してしまう可能性
−元々の温度は40〜50℃程度だったが,3号では白煙(おそらく水蒸気)が発生.蒸発が始まっている可能性
−発熱量は炉内の核燃料に比べて格段に少ない
−それでもほっておくと水位が下がり使用済み燃料が露出してしまう
・使用済み燃料プールは格納容器の外,建屋の中にあるので,炉内の核燃料と比べると大気中への拡散リスク高
−露出してもすぐに放射性物質が出るわけではない
−使用済み燃料の温度が上昇すると,上述の原理でセシウムの気化や一部の溶融が起き,放射性物質が放出
・使用済み燃料は強い放射線を出すため近付いて作業するのが困難だが,水の中にあれば放射線は遮蔽できる
[対策]
・注水により冷却,放射線を遮蔽
・現在は地上からの放水準備の最終段階.ヘリからの注水は放射線量が高く断念,明日以降に再度トライ
・炉心と比べて,温度も低く,発熱量も少ないので,水の注入による冷却効果は高い
【5・6号の状況】
・3・4号と同じことが起こる可能性があるが,水温はまだ50〜60℃程度.時間的な
・津波で海水ポンプを喪失したが,新しい海水ポンプを設置工事中で,2〜3日中に動く可能性
【懸念事項/良いニュース】
[懸念事項]
・発電所内の放射線の強度が上がっており,作業員がより厳しい環境での作業さざるを得なくなっている
・作業員は,被ばく管理をされており,放射線強度が上がると,1回に作業できる時間が限られていく
・体力的にも厳しい中,できる限りストレスを感じずに作業をしてもらう必要がある
[良いニュース]
・新たに送電網を引き,外部電源が回復される可能性あり
・どの機器が生きているかはわからないが,外部電源が使えれば,備え付けの冷却機能が復旧する可能性あり
・確実な情報ではないので,楽観視はできない
【東京から避難する必要があるか?】
・昨日から数人の友人から聞かれたが,技術的な結論としては「避難する必要はない」
−距離が200km以上あるので大規模に放射性物質が放出されたとしても,東京で人体に影響は出ない
−100km離れた東海村では福島第一周辺の1/100〜1/1000程度になっている.
−東京はさらに1/100〜1/1000なると考えられる.
−気になる方は適宜「都道府県別環境放射能水準調査結果」http://bit.ly/fByHZkを参照
・私見だが,福島第一の近接地域(20km圏)以外での問題は不必要な不安喚起による精神疾患・パニックの誘発
・誤った情報も氾濫している東京等より,遠方にいる方が精神衛生上よければそちらに行くのも1つの選択
(特に春休み中のお子さん等)